従来の双生児法とはやや観点を異にして, 所謂同一環境において生育したEZ対偶者間において発現して来る性格差異を, その相互関係との関連において研究することを志したものである。 そこで箪者は, 卵生診断の確実な東大附属中学校1年在学双生児20組 (EZ12組・ZZ4組・PZ2組・U K2組) を研究対象として, 学校並びに集団合宿生活での行動観察, 種々の性格診断法を併用して, 各対の性格特徴を把捉し, その差異を検出することに努めた゜ その結果, 従来の諸研究が, いずれも性格における高度の類似を強調しているにも拘らず, その社会的契機を重視していく限りにおいては, 案外差異を見出したし, 諸テストの結果でも, ZZに比すればやや類似しているとはいえ, A・B間に可成りの開きがみられた。而も大凡の傾向としては, その開きの大小, 反応の一致慶の高低が, 性格差異評価の一資料たり得ると解せられる。 ところで, その差異の原因としては, 固より先ず, 身体的. 生理的条件が考えられるべきであろうし, 事実, 一般的にみて, 身体的差異の大なる対に, 性格差異も亦大なる傾向が認められ, その差小なる対は, 性格差異も小であつた。 それ以外に差因の原因を求めるならば, 心理学的な環境的要因として, 相互依存関係との関連において, 多少とも兄弟的取扱いを受け, 又自らもかかる意識を有するところから成立する兄-弟的な関係が考えられる。そしてこれ等の明確な対においては, 矢張り差異が比較的顕著である。 この関係の表出を計つた困難な課題解決場面での実験の結果によつて, 危機的場面での行動的特性として, 一般的にみて, 主導的一従属的関係が看取され, 加えてその相互関係における協力一競争関係について若干の知見を得た。 EZにおける相互依存関係は, 性格における間柄的関係として問題になつたものであるが, これはZZに比するならば, 一般には意思疎通も円滑・良好であり, 所謂双生児共同体意識をも見出し得た。が, この“二人なるが故に”の特徴は, 両者が全く平等. 対等な関係としてあるのではなく, 寧ろ先にも見た如く, 多少とも相倚り (B) 相倚られる (A) 関係ににおいてあるようである。其の他, この間が極く自然的・円滑である対から, 何らかの摩擦・抵抗を感ずるような対に至るまでの存在や, その原因, 或いは同一視の問題等についても考察を進めた。 最後に, 教育的見地から, 今後この観点からの研究の推進のためにも, 一・二の点に簡単に触れておきたい。 EZが, 遺伝質同一とされているところからも明らかなように, 心的構造の下層部においては, 極めて高度の一致を示すのは当然である。が, 現実の生活においては, 遺伝的な規定に因りつつも, “上層部の世界が意識的には優勢を占め, 自らの行動を統御し, 主権性を担つている”(6) ことを思うならば, EZにおける兄一弟的関係が, 一その行動面において, Aの主導的Bの従属的な傾向への分化に導いていつたことは, 望ましい性格の形成を考慮するに当つても, 充分注目せられてよいであろう。この意味でも, EZにおける性格差具は, 今後大いに追究されてよかろう。 EZにおける主導一従属的関係は, 知的要因によつて規定されるとの論があるようである。(8) 確かに対象双生児について, その学業成績や知能検査結果をみても, 現象的にはそうである。成績の相対的によい方は, 主導的とされる者に, 大体相当しているからである。 が, 遺伝質同一の仮定が正しく, 身体的器質的条件が特に具るところないならば, 主導的であり成績の良好な者は, 多くはA児で易るところからみても, 主導的一従属的関係の成立が, 逆に学業成績などにも影響を及ぼしているのではなかろうかとの推論も可能であろう。とに角, 一般に, 学業成績と心的構えとの連関を考察するに当つても, この種研究が一つの素材を提供することが期待される。 これ等, 問題の今後の展開のために, その一二を指摘するだけでも, 一層充実した精細な実証的研究を, 長期に亘り, 発達史的に続けることが必至と思われる。そうする時はじめて, ここに提供された問題も, 進展するかもしれないであろう。 稿を終るに臨み, 終始懇篤な指導を忝けなうした指導教官三木安正教授はじめ諸先生方, 並びに直接材料蒐集其の他に援助を与えられた嘱託木村幸子氏, 附属学校関係各教官に対し, 謹んで感謝する。