本研究の目的は, 養護施設における, ホスピタリズム発生の要因と考えられる「施設入所以前に発生する児童の共通特性」を幸福感調査により考察し, 「ホスピタリズム形成の場としての, 施設の機能的特質」を, 家庭との比較においてとらえることである。 (1)幸福感調査の結果は次のごとくである。 (1) 一般家庭児童の幸福感の源泉は「親の愛情」にある。 (2) 「親の愛情」を失つた施設児は, 幸福を「施設職員の養護を通じた愛情」に求めようとする傾向が強い。 (3) 施設の孤児は, 現実に適応するために, 幸福への希望の水準を切り下げ, 施設職員の愛情を中心とした二次的な幸福感を再形成し, そのために, 非常に高い幸福感をもつている。 (4) 施設において, 両親, 或いは片親のある児童は, あくまでも, 親の愛情を源泉とした幸福感への希望の水準を切り下げず, 固持しようとするため, 親の欠損の状態に応じて, 幸福感が低下している。 (2)施設と家庭の差異は次のごとく考察できた。 (1) 親の愛情の不足 (意識的, 教育的, 平等愛に対する, 本能的 & middot;盲目的 & middot;利己的愛情関係の不足) (2) 施設児の親子関係と職員との関係, 或いは職員自身の家族関係と施設児との関係の二重性格性よりくる人間関係の矛盾性。 対人関係における, 同一化対象の不安定性ならびに, 異常緊張の継続と, 解消の機会の不足。 (4) 施設における, 地域社会との交流の制限による, 社会生活からの児童の孤立化, および社会人の施設児評価の個人差ならびに過大評価。 (5)集団生活の能率化と合理化強調による, 個人生活の束縛および犠牲。 (6) 生活習慣の単調公式化と, 精神的 & middot; 物質的平等主義による人間関係の形式化および他律化。 (7) 経済生活の依存性より来る, 収容児の独立心の欠如および, 共有物による自我発達の障害。 (8) 職員数の不足, 問題児の混入, 対外意識過剰などによる, 職員の負担過重と養護の不徹底。 これらの特質によつて, ホスピタリズムがいかに形成されるかという過程の実証的追究は, 今後の問題として残されている。