われわれは色彩象徴法と言語連想法とを用い, 意識現象としての感情を発達的な立場から研究しようとした。すなわち成人の感情生活を構成するそれぞれの感情は, 何才頃に自覚的に理解されるか, その理解されたものの内容に差異はないか, あるとすればその差異は発達的にどう現われるか, この2点から問題を追究した。その結果見出された事実を要約すると以下のようになる。 1感情の自覚的理解の過程 (1) 色彩象徴法では, 提示された感情語に対する被験者の反応色彩の集中, 分散の傾向, および無反応の出現度からそれらの語の理解度を測定した。ここから男子では高校生において, 女子では中学生,.高校生とそれぞれそれに先立つ年令層よりも急激に理解度が高まるごとがわかる。何才頃にその理解度が全被験者の測定結果から見出された平均水準を越すか, その時期のいかんによつて各種の感情を区分することができた。 (2) 連想法では連想された反応語の頻数の多いものほどよく理解されている感情と考えた。理解度の発達的推移は色彩象徴法の場合と全く一致する。ここでも理解度が平均水準に到達する時期の違いから, 感情の発達分化の様相をとらえることができた。 (3) 2つの方法による理解度の測定結果は, 被験者を異にしながらなおかつ高い一致を示した。これはわれわれの結果が, 被験者のサムブリングに不備があるにしても, かなり正確に感情発達の一般的様相を示していると考えられよう。 (4) 2つの方法による測定結果をまとめ, それぞれの感情の理解度が平均水準以上になる時期を決定した。そこからわれわれは, 一般に快なる感情の方がより早く理解される。いいかえれば不快なる感情の方に高次の生活経験を積みあげねば理解できないような複雑高級なニユアンスをもつたものが多いということを知つた。また女子の方が感情発達のテンポが早く早熟であり, かっその理解度も男子より高いことがわかつた。 2意識内容の質的変貌の過程 それぞれの被験者によつて理解されている感情の内容がどれほど違うか, これを明らかにするため色彩象徴法の場合は, 反応色彩の出現分布傾向の差異をDスコアで数量化し, 連想法の場合は反応語を6つのカテゴリーに分け, それぞれのカテゴリーに属する反応語の出現度を手掛りにした。 (1) 年令的に相隣接する2グループ間の, それぞれの感情語に対するDスコアを算出し, その値の大きさから変化のないもの, 変化するもの, 変化するものはその時期によつて区分し, それぞれこれに該当する感情の頻数をまとめてみると男子では比較的変化のないものが多いが, 女子では男子に比べ年令によつてこの質的変化が著しく現われる。 (2) 理解内容の性差をDスコアでしらべたところ, 高校生にいたつて男女の違いが飛躍的に大きく現われることを知つた。 (3) すべての感情語に対する反応語を被験者群別に総計し, さらにそれを6つのカテゴリーに分けて, それぞれの出現傾向をしらべてみると年令の上昇とともに文脈反応が増加し (特に女子の高校生において著しい), 同意, 反意の反応が減少することがわかる。これは感情の客観的認識の深まりを示すものであろう。