本研究は, パーソナリティ要因としての認知的複雑性が印象形成過程に及ぼす影響を初頭-新近効果 (実験I), 印象変容 (実験II) の側面から検討するものである。 小川 (1966) により修正されたRep testを女子大学生に実施し, Hi-Coの者と, Lo-Coの者を抽出した。1週間後に, 各Ssに社会的要求性で矛盾する内容を持つ一人の仮想人物についての情報をテープレコーダーで呈示し, 印象を形成させた。二つの実験より得られた主な結果は, つぎのとおりである。 (1) 初頭-新近効果は, 認知的複雑性の要因以上に, 〔+〕の情報の呈示位置により規定された。すなわち, 〔+〕→〔-〕では初頭効果, 〔-〕→〔+〕では新近効果がみられる。 (2) Lo-Coの者は, Hi-Coの者より, 〔+〕の情報に影響される度合が大きく, 結果的に, より一方にかたよった印象を形成する傾向がみられた。 (3) Lo-Coの者は, Hi-Coの者にくらべて, より著るしい印象変容を示した。すなわち, Lo-Coの者においては, 第1情報で得られた印象は対立する第2情報によって変容し, かれらが, 仮想人物について得る最終的印象は第2情報に基づいたものになるのである。一方, Hi-Coの者では, 最終的印象は対立する2情報を統合した形で判断されたものであった。 (4) 印象変容は, 情報の呈示順序効果によっても規定された。〔+〕→〔-〕に情報が示された場合, 〔-〕→〔+〕以上に大きな印象変容がみられた。 (5) 判断の確信度は, 〔+〕→〔-〕において著るしく減少した。すなわち, 〔+〕→〔-〕では印象変容が生ずるとともに, 判断の確信度も減少するのである。なお確信度の減少で, Hi-Co, Lo-Coに差はみられなかった。