本研究は, 社会的相互作用場面において, 具体的な目標の設定が, プレイヤーの戦略決定行為にどのような効果をもたらすかをPDゲームを用いて検討した。被験者は男子大学生で, 彼らは, この実験は2人で行ない各自が獲得した得点はデジタルで表示されるが, 20試行終了ごとに合計点が0点に戻されるという説明をうけた。実験Iにおいては, 目標得点 (50) の教示を第2セッションにのみ導入し, 目標設定を用いない対照群との間で協力反応率がどのように異なるかを検討した。また, さくらと被験者がプレイする条件と2人の被験者が任意にプレイする条件との間の協力反応の相違について検討した。実験IIにおいては, 目標得点の水準を30, 40, 50, 60, 70, のそれぞれに設定し, この水準と協力反応の関係を分析した。また実験Iおよび実験IIにおいて, 目標不達成の場合に減点法によるペナルティを与えて, それが協力反応におよぼす効果を検討した。実験Iおよび実験IIをとおして, 第1, 第2および第3セッションを行ない, 各セッションは20試行を1単位として40試行で構成された。また両実験において, 目標得点教示が与えられない第3セッションでの協力反応の変化を検討した。 主要な結果はつぎのとおりである。 1) 50点の目標設定は協力反応を有意に増大させ, この効果は目標設定をとりのぞいた後続遂行にまで持続した。 2) 反応一致率を75%に操作したさくらを用いた条件と, 2人の被験者が任意にプレイした条件との間に有意な差はみられなかった。 3) ペナルティの効果は全くみられなかった。 以上の結果から, 完全な相互協力を必要とする水準で目標得点を設定することは, 被験者にかえって心理的圧力をかける結果となり, むしろその水準よりやや低い水準で目標得点を設定することが協力反応の増大に最も効果的であるという知見を得ることができた。