本研究は, 三者関係の認知 (p-o-q系) におけるバランス傾向の強弱の個人差を, 認知複雑性の高低から分析することを目的とした. pのoに対する関係をR1, pのqに対する関係をR2, oのqに対する関係のpによる認知をR3と表わした場合, 本研究では, R1が 〔+〕 となっている三者関係事態のみに限定して, バランス傾向を捉えた. 被験者は, 女子高校2年生153名で, 認知的複雑性の高低によって, L群 (53名), M群 (48名), H群 (52名) に分けられた. 主な結果は, 次のとおりである. 1. 仮想場面においては, M群の被験者が, 〔R1 R2〕 が 〔+-〕 となっている事態で有意なバランスへの傾向を示さなかった. しかし, これ以外では, いずれもHeiderの所説から予想されるR3反応が有意に多く出現した. 2. また, 仮想場面においては, 認知的複雑性の低い者の方が, バランス傾向が強い傾向にあった. 3. 現実のoq関係 (R03) が「好きでも嫌いでもない」という関係にある事態では, いずれの被験者群においても, バランス理論から予測されるR3反応が有意に多く出現した. 4. また, 現実場面においては, 仮想場面とは逆に, 認知的複雑性の高いH群のバランス傾向が, 他の2群よりも有意に強いことが知られた. このような結果については, 現実の対人認知事態でバランス図式がもつ意味の点から討論がなされた. 5. バランス傾向と認知的複雑性との関係は, 必ずしも直線的なものでない可能性が示唆された.