本研究の目的は現在の職業生活への適応の度合に及ぼすキャリア目標設定の効果を検討することであった. 回答者は390名の民間企業組織体の従業員であった. 本研究で検討した仮説は次の通りであった. (1) 将来の職業生活に主体的に目標を設定している者 (目標設定群) は目標を設定していない者 (無目標群) に較べて現在の職業生活によりよい適応を示すであろう. (2) 目標設定群のうち, 現在の職務遂行が目標達成に結びついていると認知している者はそうでない者に較べてより適応的であろう. (3) 現在の職場環境条件と現在の職業生活適応度の関係は目標設定群よりも無目標群についてより強いであろう. 得られた結果は次の通りであった. 仮説1, 2はおおむね支持された. すなわち, 人は職業生活に目標を設定している時, そして現在の職務遂行に高い道具性を認知している時, 現在の職業生活によりよい適応を示した. 職場環境条件と職業生活適応度の関係の強さに関する結果は明確でなかった. 仮説3については更なる検討が必要とされた. 次の段階としては, 以下の3つの要因による目標設定効果のちがいに関する条件分析的研究が必要であることが論じられた. 目標設定する課題の複雑さの程度, 目標の困難度, 目標の時間的広がりがその要因である. さらに目標設定を促す要因についての検討の必要性が述べられた.