本研究の目的は, 集団極化現象の生起するメカニズムについて, 社会的比較説の立場から検討することであった. 特に, 能力比較を基礎とした意見の比較が極化現象のメカニズムとして意味あるものか否かを検討した. 被験者は大学生女子125名で, 彼女らは, 比較の対象となる他者の能力が自分より高い条件 (H条件), 類似した条件 (M条件), 低い条件 (L条件), および統制条件に無作為に割り当てられ, 実験条件の被験者は, 比較の対象となる他者の意見 (実験前調査で得られた各事例のアドバイスの平均値) に接触した. CDQ (Choice Di-lemma Questionnaire) が材料として用いられた. なお, 能力に関して, M条件とL条件に有意な差がみられなかったので, 分析の対象はH条件, M条件, および統制条件であった. 主な結果は次の通りであった. 1. 明確ではなかったが, 比較対象の他者の能力が自分より高い条件よりも類似した条件において, よりriskyな方向への意見の変化, すなわち, 極化現象が生じやすかった. 2. 被験者の初期態度の位置によって, 極化の程度が異なる傾向にあった. 3. 他者の意見との比較自体は, 能力が類似している場合よりむしろ高い場合により生じた. すなわち, 意見の変化とは逆の傾向であった. 4. 意見の変化が大きいほど, その意見に対する確信の度合が高くなる傾向がみられた. すなわち, 意見・判断の極化が大きいほど, 極化の強度も大であった. 以上の結果は, 集団極化現象のメカニズムとして, 能力比較を基礎とした意見の比較が起こり得ることを示唆している. 付記 実験の実施にあたり, 快くご協力いただきました広島文化女子短期大学古矢千雪先生に, 厚く感謝致します. また, 実験を進めるにあたり, 終始ご協力いただいた森永康子さんに感謝の意を表します.