本研究は, 模擬的緊急事態において, 誘導者 (リーダー) の指示行動が, 被誘導者の誘導者に対する追随行動におよぼす効果を実験的に吟味したものである。 被験者は, モニターテレビに表示された自己の点をスイッチで操作し移動させ, 出口を発見して脱出するという課題を与えられた。ただし, 被験者は, 制限時間内に脱出できなければ, 電気ショックが与えられる危機的状況に置かれた。 5人の被験者と1人のサクラからなる6人集団を構成した。このサクラが誘導者として指名された。実験条件は, サクラが試行中に脱出方向についての指示のみを行なう条件 (脱出方向指示のみの条件), この脱出方向指示に加えて, 試行開始直後に被誘導者の情緒を安定させる指示を行なう条件 (初期情緒安定指示条件), 試行中期に情緒を安定させる指示を行なう条件 (中期情緒安定指示条件), サクラが指示行動を行なわない条件 (コントロール条件) の4条件であった。従属変数は, サクラの点と5人の被験者の点の画面上の距離 (被誘導者の誘導者からの離反度) と, 5人の被験者相互の距離 (被誘導者の分散度) を測定した。この2つの変数は, 試行中の21の時点で測定した。 実験結果は次のとおりであった。 1. 誘導者からの離反度および被誘導者の分散度のいずれも, 4条件中, 初期情緒安定指示条件下において最小となり, コントロール条件下において最大となった。中期情緒安定指示条件下においては, 脱出方向指示のみの条件とほぼ同程度の離反度, 分散度を示した。 2. 事後調査の結果から, 誘導者の情緒安定指示については, 初期情緒安定指示条件は, 中期情緒安定指示条件よりも, 多数の被験者によって認知される傾向が見出された。