本研究の目的は, 集団極化現象の生起するメカニズムについて, 社会的比較説の立場から検討することであった。特に, 能力比較を基礎とした意見の比較が, 同質的集団内で生起する極化現象のメカニズムとして意味があるか否かを検討した。 被験者は83名で, 彼らは, 比較の対象となる他者が高い能力をもつ条件 (H条件), 平均的な能力をもつ条件 (M条件) の実験条件, および統制条件にそれぞれ無作為に割り当てられた。実験条件の被験者は, 他者の意見 (アドバイスの平均値) に接触した。比較の対象となる他者は同じクラスの学生であった。材料としてはCDQ (Choice Dilemma Questionnaire) 4事例が用いられた。主な結果は以下の通りであった。事例1では, H条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。すなわち高能力の他者との比較を通して極化現象が生起した。事例3でも同様にH条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。また, アドバイスの初期態度の位置によって極化の程度が異なる傾向にあった。 以上の結果は, 能力比較を基礎とした意見の比較が起こり得ることを示しており, 自分よりある程度能力の高い他者との比較を通して集団極化現象が生起することを示唆するものであった。また, 筆者らの前研究との考察において, 比較他者の属する集団の性質, すなわち, 被験者にとって同質的であるか, 異質的であるかによって集団極化現象の生起の様相の異なることが示唆された。