本研究は, 無関連恐怖喚起状況下での説得促進効果の特徴を解明するために, その持続性および媒介メカニズムについて検討した. 無関連恐怖喚起による説得促進効果は一時的で持続性に欠けるであろうと仮定され, また, 無関連恐怖喚起の一時的な説得促進効果は, distractionによって媒介されるであろうと仮定された. 独立変数は, 恐怖の関連性 (関連恐怖, 無関連恐怖), 恐怖喚起 (強恐怖喚起, 弱恐怖喚起) および時間 (説得直後, 1週間後, 4週間後) であり, 時間変数のみが被験者内変数であった. after-onlyデザインを利用し, 恐怖の関連性操作には “同一恐怖喚起-異種話題説得” の手続きを用いた. 被験者は女子大学生120人であり4実験群と1統制群に対し24人ずつ無作為に配置された. 従属変数は態度変容であり, 意見と行動意志の2側面を測定した. distractionは, 説得話題に関する反論, コミュニケーターの信憑性に対する認知の側面について測定した. また, 説得1週間後に, 説得話題に関する思考, 情報交換といった注目行動を測定した. 1. 意見変化の分析から, 無関連恐怖喚起状況下での説得的コミュニケーションの直後効果は, 無関連恐怖喚起水準の上昇によって一時的に促進されるが, その説得促進効果は時間経過とともに急激に消失し, 持続性をもたないことが示された. 2. 主として行動変化の分析から, 比較条件として設定された恐怖喚起コミュニケーションの直後効果は, 関連恐怖喚起水準の上昇によって促進され, その説得促進効果は4週間後も持続することが示された. 3. 無関連恐怖喚起は, distraction測度として測定された説得話題に関する反論やコミュニケーターの信憑性に対する認知に影響を及ぼさなかった. 4. 関連恐怖は説得後の受け手の注意を説得話題に向けさせる機能をもつが, 無関連恐怖は逆に受け手の注意を説得話題からそらす機能をもつことが判明した. 本研究の結果は, 無関連恐怖喚起状況下での説得促進効果が持続性に欠けるものであることを実証し, 当初の仮説を支持した. そして, distractionに関する当初の予想が支持されなかった点について, 今後の研究ではより直接的なdistraction測度を設定することが必要であると提案された.