本研究では, 他者の行動に対する帰属に関して, 割引原理・割増原理で表現される推論のパターンを検証することを試みた。共通の刺激場面を用い, 情報の与え方を変化させた3つの実験を行なったが, それらの概要と主な結果は以下の通りである。 1. 実験Iでは, 刺激人物 (行為者) の内的な特徴に関する情報を最小限にとどめ, 行動の起こった状況の外的要因の力と行動の内容のみの情報から帰属を行なわせた。 外的要因に関する条件には, 行動に対して促進的 (F), 中性的 (N), 抑止的 (I) の3種類を作ったが, 内的要因が原因と考えられる程度は, 外的条件が促進的である時に最も低かった。さらに外的条件が促進的な場合には, 行動に対応した行為者の傾注・属性を推測する程度も最も低かった。つまりデータは, 割引原理からの仮説を強力に支持した。しかし, 外的条件が抑止的である場合と中性的である場合の差は明確でなく, 割増原理に対応する推論パターンは確認されなかった。 2. 実験IIでは, 行為者の内的な特徴に関する情報・知識をもつ場合を検討した。ここでは, 状況の外的条件に関する情報に加えて, 行為者の性格や行動傾向など, 内的条件に関する情報も操作し, 3×3の要因配置で実験を行なった。 その結果, 全般に内的, 外的両条件が考慮された上で帰属の判断がなされたことが確認されたが, 特に内的条件に関する情報が著しい効果をもち, 内的条件の強弱が外的要因の評定に影響を与えるという方向で, 割引・割増型推論が生じた。他方, 外的条件の強弱は, 内的要因の評定にあまり大きな影響をおよぼさなかった。 3. 実験IIIでは, 実験IIの結果を受けて, 内的条件の知識をもとに外的要因の作用を推定するという方向の推論を吟味した。そのため, 実験Iとは逆に, 外的状況の叙述を極めて不明確で曖昧なものとし, 行為者側の内的条件のみを, 促進的 (f), 中性的 (n), 抑止的 (i) の3段階に変化させた。 その結果, 内的条件がf→n→iとなるにつれ, 状況に存在する外的要因の役割がより大きく評価される傾向が得られた。この傾向は, 外的状況の諸側面に関する推測にも同様に認められた。 以上, 3つの実験の結果から, (1) 割引・割増原理に対応する推論は, 2つの可能な原因のうち片方のみに関する情報が存在する時に, 最も典型的な形で起こること, (2) そしてその推論は, 外的要因→内的要因という方向に限定されないこと, そしてさらに, (3) 両原因に関する情報が存在する場合でも, 相対的に優勢, 明確な方の情報をもとにした割引・割増型推論が起こり得ること, が明らかになった。