本研究は, 課題遂行に及ぼす観察者効果と技能水準との関係について, フィールド実験を通じて検討することを目的としたものである。実験場面は次のような特徴を持つ。技能水準の基盤となる経験の違いは長期に及ぶ。課題は被験者が日頃行っている内容であり, また, 評価や比較が前提とされるものである。被験者は実験参加への自覚を持たず, 日常の活動の中で課題に携わる。 被験者にはゴルフ・サークルに属する大学生30名を用い, 各自のハンディキャップ値を基に技能水準に応じて, 上級者, 中級者, 初級者の3群に分けた。課題はアプローチ・ショットを用い, その距離を50mと70mに設定することで成功可能性を操作した。被験者は定められた練習の後, 2種類の課題を各10試行, それぞれ単独, 観察者条件の下で遂行した。観察者は課題遂行者以外の被験者によって構成された。 結果は次のことを示している。観察者の存在は全般に遂行結果を低下させる。この観察者効果は主に中級者と初級者によるものであり, 上級者の場合変化がみられない。ただし, こうした相違は傾向を示すに止まる。技能水準と成績は対応するが, 中級者と初級者には十分な差は存在しない。課題難度の高い70m課題の方が成功数は少なく, この傾向には技能水準や遂行状況による違いがない。これらの結果から次のような示唆が得られた。ゴルフのような競技が複雑な運動行動によって構成されていると仮定するならば, 観察者による妨害効果は従来の知見と合致するものである。それ故, 促進的な効果をもたらす可能性は残されているものの, むしろ, 複雑な課題の場合, 技能水準の上昇が及ぼす影響は妨害効果の減少というかたちを取るものと考えられる。