本研究の目的は, 個人の逸脱行動が個人の所属する集団の利益につながる状況における逸脱行動の発生を検証することにあった。実験には5人1組のクラッチフィールド型の同調実験装置を用い, 自分以外の4人が明かに誤った解答と思われる反応をしていると表示した。実験1では, 個人の逸脱行動による利益が実験に参加している5人集団に与えられる「集団報酬条件」と報酬が正解した個人にのみ与えられる「個人報酬条件」 が設定されたが, 両者の間に逸脱行動回数の有意な差異は見い出せなかった。実験2では実験1の集団報酬条件に代わり, 「クラス報酬条件」 が設定された。この条件は個人の逸脱行動による利益が個人 (本研究での学生) の所属する, より上位の集団であるクラスに与えられる条件であった。結果はこのクラス報酬条件の方が個人報酬条件よりも逸脱行動の回数が有意に多いというものであった。これらの結果から, 集団の利益のための逸脱行動は, 逸脱行動がもたらす利益が直接, 逸脱行動の対象となる集団に与えられる場合には発生せず, この集団を内包するより上位の集団に与えられる場合に発生することが示された。以上のことから, 集団のための逸脱行動には, 個人と否定的関係にない集団の利益を想定する必要があると思われる。また, 本研究では, 逸脱・同調行動を認知的な不協和をもたらすものと位置づけ, 逸脱・同調行動の発生, 行動後の変化について, 今後, 統合的に論じる可能性について示唆した。