認知的不協和の理論をはじめとする認知的斉合性の諸理論では十分な説明が得られなかった認知的枠組みの変容の問題について論じた。特に, 以下の3つを目的として3つの実験を行った。 1. 従来の研究に見られるように, 不斉合情報の統合的処理が行なわれることを確認する。 2. 対人情報を用いた不斉合について, その処理の様式を統合性の観点から情報処理に即した形で整理する。 3. 整理された処理様式について対人認知の内容の相違を明らかにし, 認知的処理の質的違いを示す。 そして実験の結果, 不斉合な情報に対しても統合的な処理が行なわれることが確認された。そして次のような処理様式が整理された。 処理様式I [不斉合な情報の無視] 1. 不斉合な情報の無視 処理様式II [不斉合な情報の並列的処理] 2. 不斉合な情報の変形 3. 複数の評価領域属性の設定 4. 人物の二面性の設定 処理様式III [新たな付加要素を用いた処理] 5. 対人認知の多様性の設定 6. 対象や状況に対する複数の対応の仕方の設定 7. 因果関係あるいは関係性の設定 また, 処理様式I, II, IIIでは対人認知の内容が異なることが示された。すなわちIからII, IIからIIIへとより組織的に不斉合な情報を処理していると考えられる方略を経た場合の方が人物像のリアリティ, 人物の内面性の評価は高く, 不斉合な情報の組織的な統合の度合により認知的処理のレベルは異なることが示唆された。