本研究の目的は, 従来の囚人のジレンマ状況より一般性の高いネットワーク型PD状況を設定し, この状況下で各個人がいかなる行動をとり, どの様な関係を生み出すか実験により明らかにすることである。ネットワーク型PDとは, PD毎に各成員が対戦相手を集団内から指名することができ, PDの対戦は互いに指名し合った2者間で行う状況のことである。この状況を設定することで, PD研究は従来扱ってきた静的な二者関係から, 関係自体が変化し得る動的な二者関係に拡張可能になる。実験では4人集団のネットワーク型PD状況のネットワーク条件と従来の2者PD条件を行った。この実験から明らかにされた知見を以下に示す。(1) ネットワーク型PDでは, 同一メンバーによる継続的二者関係 (コミットメント) が, 両者の合意によって自生的に発生することが明らかにされた。(2) 自生的に発生したコミットメントでは, 高い協力関係を作り上げることが示された。(3) しかも, このネットワーク型PD状況下のコミットメントは, 対戦相手の選択の余地のない二者PD条件よりも強固な協力関係を生み出した。(4) しかし, ネットワーク型PD状況下でも強制的に成立した継続的二者関係では協力関係は達成されなかった。これらの結果から, ネットワーク型PD状況では, 二者関係の不安定性によって, 長期的関係が最初から保証されている2者PD条件におけるよりも, 行動が将来に大きな影響を与えると考察された。