本研究では, 内藤 (1993) の開発によるPAC分析の技法を援用することで, 単一学級の学級風土を事例記述的に構造分析することを試みた。被験者には長年のあいだ学級担任として経営を担ってきた経験をもつ教師1名 (実験時は大学院修士課程に在学中) をあて, これまでで最も運営に失敗した学級と, 最も成功した学級を対象として, 運営にかかわる重要事項を連想させた。ついでそれぞれの学級において, 連想項目間の類似度を評定させ, 類似度距離行列に基づいてウォード法でクラスター分析をした。この後, 失敗学級, 成功学級の順に被験者自身に構造の解釈をさせた。 これらの結果から, 平均値も分散もない連想項目間の類似度距離行列によるクラスター分析と被験者による構造の解釈によって, 特定学級の風土の事例記述的な構造分析が可能であることが示唆された。同時に, 失敗学級と成功学級それぞれの連想項目と構造が際だって対蹠的なことから, より一般的な通常の個別学級の風土診断に際しても活用できることが推測された。 それとともに, 本技法での担任教師の連想項目内容や構造の解釈の仕方 (体験様式) に注目することで, 教師自身の問題傾向や能力の判定, 教育訓練に活用できることが明らかにされた。また本技法に関しては, 簡単な実施法訓練で担任教師が単独で利用可能となることから, 他人に知られることなく内密に学級風土の診断ができ, 学級での問題発生時に迅速に分析し, 対策を講じることができるようになるという利点も示唆された。 今後は, 多様な失敗と成功事例の検討を蓄積するとともに, 学級経営に関連するその他の広範な内容への応用可能性を探っていくことが課題となろう。