本研究は, 防護動機理論 (PMT) の立場から効果的な脅威アピールを構成する情報成分を解明することを目的とした。研究Iでは, 780名の大学生を対象に, 9種類の話題 (対処行動) 別にPMTの設定する認知要因および対処行動意思に関する各質問項目に4段階で回答を求めた。因子分析と重回帰分析からPMTが設定する7種類の脅威アピール成分の独立性と重要性を識別した結果, それらの成分は, 脅威の大きさ, 不適応反応に伴う報酬, 勧告された対処行動の効果性, 対処行動に関する自己効力, 対処行動に伴うコストといった5種類に整理・統合可能であると結論づけた。研究IIでは, その5種類の成分と説得効果の因果関係を検討した。女子大学生544名が, その5種類の情報を組み合せた32種類の説得メッセージのうち1種類を読んだ後, 従属変数に回答した。その結果, 脅威の大きさ, 反応効果性, および自己効力は説得効果を促進し, 報酬および反応コストは説得効果を抑制することが判明した。特に, 脅威の大きさ (深刻さ, 生起確率) と反応効果性が脅威アピールの中心的成分であることが示された。また, 脅威の大きさの説得効果は反応コストにより規定されることが明らかとなった。将来の課題として, PMTの説明力の向上, PMTにおける恐怖感情の機能の位置づけについて言及した。