北東アジアの国際協力には,次の二つの重要な意義がある。まず第一に,それは冷戦構造の崩壊後の国際社会が,平和の配当を現実のものとしてそれを公正に実施する,という歴史的正当性を獲得するか否かの試金石である。第二に,それは現在アジアで華々しく脚光を浴びている経済成長が内包する矛盾を解決するモデルを提示できる。 冷戦構造崩壊後の国際社会は,放置しておけば国際社会が野放図な経済競争の修羅場となり,いずれは再軍備競争を将来する危険性をはらんでいる。従来の国益の概念はこれを助長し,相互依存体系はこれを抑制しつつ新たな発展のフロンティアを開拓する。この意味で,「国益」の概念は歴史的正当性を相当に失いつつあり,さまざまな領域なおける,国境を越えた市民の結合体が正当性の新たな担い手として登場しつつある。 北東アジアは,冷戦構造の残滓を引きずっている例外的な地域であるとともに,その国際経済関係が他の経済ブロックと異なり,相互補完性に基づく,純粋に経済合理性のみに支えられており,冷戦期の政治的制約が緩和されるにつれて自然に発生した経済圏である。しかし,その国境地帯はいずれもそれぞれの中央からの支援が薄かった地域であり,各国の成長拠点に比して初期条件は相対的に劣悪である。このような人為的に作り上げられた不利な条件を緩和するには,単独では達成できない投資効率の向上を,国際協調開発によって克服すべきである。短期的には国益が相反する要素があるため,開発事業が軌道に乗るまで,国際機関のリーダーシップが必要である。