マルチン法で小麦粉からグルテンを収率よく得る目的のため,物理的,化学的な面より各種の実験検討を行い,種々の知見を得た。 (1)ドウを作る場合,加水量は60%以上あればよく,混捏さえ充分であれば,収率に変化は見られない。 (2)ドウを混捏する場合,ドウのコンシステンシイが最大になつた時,グルテン収率が最高になるので,グルテンの収量に関係があるのは蛋白の網状組織形成が最大の要因であると思われる。 (3)ドウの網状組織形成に関連して,小麦粉配合の問題を取り上げ,単独では充分にグルテンが取り上げられぬ粉より,グルテン蛋白を収得することについて述べた。 (4)ドウのpHをグルテンの等電点附近に調製すれば収率が増大し更に塩類の効果としてはCa++の如き2価金属のほうがよいことがわかつた。 (5)小麦粉のドウ改良剤として酸化剤還元剤の影響を調べグルテン分離の目的のためには製パンの場合と異り,還元剤の使用が好ましいことを述べた。 (6)小麦の水溶性蛋白を,亜硫酸パルプ廃液で回収する可能性について述べ,次いでこれをドウの捏り水に使用することによりグルテン収率を向上せしめ得ることを明らかにした。 以上の結果,マルチン法におけるグルテン収率の向上に関して種々なる改良法を見出すことができた。 終りに臨み,御指導を賜つた味の素K.K横浜工場長,小川鉄雄博士,川崎工場次長,河村百合雄氏,同澱粉課長,渋谷新四郎氏,並びに実験に協力された石渡重太郎氏に感謝致します。