この論文は, 1970年代後半から80年代に焦点を合わせて,わが国の計量経済分析の新しい動向を,マクロ経済に関するものと個別経済主体に関するものに分けて展望する.マクロ経済の計量分析では,マクロ計量経済モデルの最近の動向を要約した後,マクロモデル分析の第3期に属する主要な計量モデルの特徴を,モデルの定式化と政府支出乗数の面から比較検討する. 個別経済主体の計量分析では,企業行動に関するものとして,設備投資関数と生産・費用関数の分析を,家計行動に関するものとして,消費・貯蓄関数をとりあげる.具体的には,設備投資関数では,トーピンのq理論に基づく投資関数の推定結果とそれらの問題点を議論する.また,生産・費用関数の分析では,要素間の代替可能性,技術進歩と生産性,規模と範囲の経済性の側面から,生産技術に関する構造パラメータの実証研究の結果について展望する.他方,家計行動の分析では,消費・貯蓄の最近の研究動向を, R.ホール以降のライフサイクル=恒常所得仮説を中心として展望した上で,わが国の高貯蓄率をめぐる実証研究を整理し,さらに,品目別消費支出,資産選択,労働供給に関する計量分析をとりあげる.