左中前頭回脚部の限局病変により純粋仮名失書を呈した症例について,単語の音節数とモーラ数,仮名数の対応関係から症状を分析し,同部位の機能について検討した。症例は71 歳の右利き男性で,脳梗塞発症後5 年を経てなお仮名失書を呈した。本症例に仮名表記親密度を統制した仮名単語書取テストと音節数・モーラ数・仮名数の対応を統制した仮名単語書取テスト,モーラ分解テストを実施したところ,仮名表記親密度が低い語の書取が困難で,特に音節数とモーラ数,仮名数が一致しない特殊音節を含む語で誤りが顕著であった。誤りは長音,促音に相当する仮名の脱落と拗音に相当する仮名の置換であり,長音,捉音を含む語ではモーラ分解も困難であった。以上から,本症例の仮名失書は音節のモーラ分解障害および複雑な音韻-仮名変換の障害を特徴とし,左中前頭回脚部は仮名書字過程におけるモーラ分解および音韻を仮名に変換する機能に関係すると考えられた。