純粋失読例の経時的な症状分析から改善経路を検討した。症例は, 35 歳の右利き女性で, 左側頭後頭葉内側面の紡錘状回, 舌状回, および脳梁膨大部に損傷を認めた。入院当初, 自分の書いた文字も暫く後にはまったく読めず, 漢字と仮名に重篤な純粋失読の症状を呈した。言語治療開始から6 ヵ月後には, なぞり読みにより, 仮名1 文字, 仮名単語, 少画数の漢字1 文字の音読と読解が可能となった。開始から 15 ヵ月後には, 運動覚を用いずに, 心像性の高い漢字の1 文字や漢字2 文字単語の読解が可能となったが, 音読は困難であった。症状の経過から, 最初に運動覚性記憶を利用する音韻系経路が改善し, 次に漢字の心像性を手がかりとする視覚性の意味系経路が改善したことが示され, 本例の純粋失読の改善には, 異なる2 種類の経路が関わったと考えられた。また心像性を手がかりとする意味系経路は, 右半球の潜在的な読字能力が関与した可能性が示唆された。