インドネシアでは、憲法第28H条で最低限の生活を行なうために社会保障を受ける権利を有していることを述べるとともに、第34条で国に全ての国民に社会保障を提供し、適切な保健サービスを提供する義務を課している。インドネシア政府は、これら国民の権利を守り国家の義務を果たすため、これまでに労働者、軍・警察、公務員、雇用者、自営業者、低所得者を対象とした社会保障制度を整備してきた。しかし、対象毎に異なる制度が導入され、その補償内容には差があった。また、これらの対象及びそれらの家族以外の国民には、公的な社会保障が提供されていない状況であった。 そのような中、憲法で保障された国民の権利と国家の義務をより強固なものとして実施するために、全国民を対象とした新社会保障制度が、2014年より段階的に導入されることとなった。 新制度では、6ヶ月以上インドネシアに居住する外国人も強制加入の対象となっているが、英語などの資料が少なく、導入時点での在留外国人への周知という点では必ずしも十分でない点が見られる。 新社会保障制度では、大きく保健関連と労務関連の2つの分野に分けられ、まずは保健関連の社会保障制度として国民健康保険が2014年1月から導入された。2013年の医療保障制度対象者は民間医療保険も含めて国民の69%であり、その対象の属性に応じて4種の制度に大別されていた。新国民健康保険制度では、多種多様な健康保険制度を一つの制度に統合し、2019年までに全国民を対象とするユニバーサル・ヘルス・カバレッジを目指している。新制度では、2005年から導入された貧困層を対象とした医療保障制度(JAMKESMAS)を基盤としており、一次医療の重点化及び診療報酬制度の導入が、その特徴である。保険適用を受けるためには必ず一次医療施設で受診することが義務づけられた。このため新制度が広く受入れられるためには、一次医療施設で提供されるサービスの質次第でこれまで病院で保健医療を受けていた人にも受入れられる制度になるかどうかが大きな鍵を握っている。 本稿では、これまでのインドネシアの社会保障制度を振り返るとともに、各法令に記載されている新社会保障制度の規定について、2014年に先行して始まった国民健康保険制度を中心にまとめる。最後に、法令で定められた制度を実施する上での課題について考察する。