個人の認識論とは, 各人が暗黙に持っている“知識”や“知ること”の性質についての信念のことであり, 個々の信念は認識的信念と呼ばれている。本研究の目的は, 野村・丸野(2011)が想定した教授学習過程への影響のうち, 個人の認識論が授業観と授業中の振る舞いを規定するという想定を検討することであった。そのために, まず745名の学生を対象とした調査によって認識的信念尺度を作成し, その信頼性・妥当性を確かめた(研究1)。このうち, 159名(男性79名, 女性80名)の大学生に対して, 質問と回答を取り入れた講義を行った(研究2)。その結果, 同一の授業に対して, 認識的信念下位尺度のうち, 利用する知識についての性質(条件性および適用可能性)を高く見積もった群は, 授業に協同活動的な側面を見出しやすく, 授業中の質問と回答の意義を実感し活用していた。また, より議論中に自他の意見の調整を行ったと自己評価した。この結果は, 授業を協同的活動として捉えるための認識的信念という観点から議論された。