京都盆地周辺の森林では遷移の進行によってブナ科樹種の優占度が変化しており,生物・非生物的環境要因の変化を通じて,それらの実生発生に影響を及ぼしている可能性がある。本研究では,京都市近郊二次林において出現するアベマキ,コナラ,アラカシ,コジイのブナ科4種を対象に,アベマキ・コナラの優占する遷移段階中期にあたる落葉広葉樹林とコジイの優占する遷移段階後半期にあたる常緑広葉樹林において実験的に種子を播種し,それらの実生発生を林分間,樹種間で比較した。アラカシ,コジイは,アベマキやコナラに比べ実生発生開始が遅く,常緑広葉樹林では発生開始がさらに遅くなる傾向が認められた。アラカシ,コジイの最終的な実生発生率は常緑広葉樹林で有意に低下し,実生発生までにキクイムシ類による加害を高い割合で受けていることが示唆された。またアベマキやコナラの種子は,落葉広葉樹林のリター層内で鱗翅目による加害を多く受ける傾向がみられ,そこでの実生発生率は低くなっていた。以上より,京都市近郊二次林のブナ科4種の実生発生には,遷移進行に伴うブナ科樹種の優占度の変化が,密度依存的死亡を通じて大きく影響する可能性が指摘された。