本研究では,太平洋型ブナ林の高原山および日本海型ブナ林の水上において,(i) ブナ・イヌブナの落下前堅果を摂食する小蛾類幼虫の形態とミトコンドリア (mt) DNA の COI 領域の塩基配列に基づいて,両地域の小蛾類の多様性を明らかにすること,(ii) 各小蛾類種と堅果食痕の対応関係を明らかにすることを目的とした。高原山のブナ・イヌブナ,水上のブナの樹冠より直接落下前堅果を採取し,幼虫を捕獲した。そして,形態的特徴に基づいて幼虫のタイプ分けを行い,各タイプについて DNA の塩基配列を決定・比較した。その結果,太平洋型ブナ林では,ブナまたはイヌブナ堅果を摂食する小蛾類は 9 種おり,ハマキガ科が多く,優占種はブナヒメシンクイであった。一方,日本海型ブナ林の小蛾類は 2 種のみであり,両型のブナ林で小蛾類の多様性に違いがみられた。各小蛾類に種特異的な堅果食痕はみられず,食痕による種同定は困難と考えられた。また,太平洋型ブナ林では, 9 種のうち 7 種はブナ・イヌブナ両種の堅果を摂食しており,既往研究にある太平洋型ブナ林での高い虫害率は両樹種の堅果を摂食する種の存在と関係している可能性が示唆された。