秋田県の天然スギ林においてスギ実生の定着過程を調査するため,2タイプの基質(根株と地表面)間で実生の出現密度と生存率を比較した。当年生実生は隔年で出現し,出現密度の高い基質は年によって異なった。一方,実生の生存率は根株上で一貫してより高く,1994年に出現した実生の3年後の生存率は地表面では0.2%,根株上では21%であった。さらに3年後にはスギ実生は地表面ではすべて消失し,根株上にのみ残存していた。調査地全体の実生数を推定した結果,出現当年には大半が地表面に分布したが,出現から3~6年後には根株上の実生の数が地表面を上回ると考えられた。根株の高さと実生の出現密度に相関はなかったが,根株上の実生の出現位置の高さと生存率には正の相関が得られた。調査地は多雪環境下にあり,根株の上部では融雪時期がより早く,光環境の良好な期間が長いことで実生の生存率が高いと推定され,根株上の実生の分布は齢とともに根株上部に偏っていた。この調査地ではスギ成木の50%,幼樹の73%が根株上に成育しているが,この分布パターンは種子散布から当年生実生に至る段階ではなく,実生の生存過程によって説明されると考えられた。