攪乱がスギ天然林のクローン構造に与える影響を明らかにするため,台風攪乱の被害地と被害を受けていない成熟林分にプロットを設置し,スギの空間分布やサイズ構造,クローン構造を調べた。高い個体識別能を示すマイクロサテライト(SSR)マーカー8遺伝子座を用いてスギのクローン構造を調べた結果,クローン構造は(a)同程度の DBH の幹がまとまって分布するジェネット,(b)DBH の差が大きい幹が空間的な広がりを持って分布するジェネット,(c)台風攪乱による根返り個体の枝が直立し,多数の小径幹が直線的に分布するジェネットの三つのパターンに分けられた。(a)と(b)は積雪によって稚樹や成木の枝が地面に接地し伏条によって生じたもの,また,(c)は,台風攪乱による根返り個体の枝が再生したものと考えられた。多雪地帯のスギ天然林において台風と積雪は多様なクローン構造を形成する要因の一つと考えられる。