食品殺菌プロセスは,マクロ的視点に立つ工学とミクロ的立場からの微生物学が融合してこそ,より信頼性の高い評価や予測が可能となると考えられる.本稿では,それらの接点に位置づけられるいくつかの局面において筆者らが進めてきた研究成果を概説した.加熱殺菌における昇温過程の解析では,大腸菌の熱死滅に対して予備保温が影響する現象を見出し,これには細胞膜脂質の相転移・相分離が関与すること,またこれが非定温過程における昇温速度の効果に反映されることを明らかにした.加熱殺菌における薬剤併用効果の動力学的解析では,薬剤の特性によって2つの類型化が可能なことを示した.新規な殺菌および細胞損傷評価法の開発では,発育遅延解析による評価法,細胞運動速度法,緑色蛍光タンパク質利用による蛍光法を提唱し,それぞれの特性と有用性を提示した.加熱殺菌における微生物死滅データベースと予測微生物学的アプローチでは,それぞれ実用化のための開発の経緯・内容と検討例の概要を紹介した.