農産物の加熱による軟化機構を解明するために,加熱過程における電気物性および力学物性の変化を解析した.試料としてバレイショ,ダイコン,およびニンジンを用い,これらを生理的食塩水中で加熱し,LCRメータを用いてインピーダンス測定を,リード共振法により動的粘弾性測定を行った.その結果,バレイショ塊茎において,インピーダンスは加熱温度上昇とともに漸減,65℃において急激に減少し,同じ温度領域で,試料を浸漬した食塩水の263nmにおける吸光度が急激に増大した.このことは,この温度領域において,細胞内の核酸関連物質などが溶出したことを示唆する.さらに,同じ温度領域で,動的粘弾性も急激に減少し,細胞原形質膜破壊による膨圧の減少が推定された.これら物性の変化の程度や温度変化領域は異なるものの,同様の現象はダイコンおよびニンジンにおいても観測することができた.以上の結果は,農産物の加熱による軟化機構の主要な原因が細胞膜構造の破壊とそれに伴う細胞膨圧の喪失によるものであることを示している.