教育に対する統制形態は、a:国家介入型、b:専門職主導型、c:民衆統制型、d:市場選択型の4類型に区分しうる。a:とb:の関係は、国家の教育権論と国民教育権論との対立の中で戦後を通じて問題とされてきた。しかし、内的事項で国家介入を禁じる点で共通しているb:とc:とd:の間の関係は問われてこなかった。c:とd:は国民の教育権論の区分論が教師に無制約な権利を与えるものだとして、区分論を否定するために提案されたものであり、それ故、憲法や教基法、特に、区分論の正当化根拠である10条の解釈が問われなければならない。いずれの統制形態も、直接責任や、条件整備、教育の機会均等、教師の特別身分保障の原則を同時に満たしてはいない。区分論を再構成するために必要なことは、以下のようなことである。1;学校、教師を含めた国家と、個人との関係を基本的人権の実現や保護の観点から規定すること。国家は内外事項の双方に責任を負うが、内的事項にはより大きな制約が存在する。2;国家を、立法的機能、行政的機能、教育的機能の部分に区分し、直接責任や条件整備の原則から相互関係を規定すること。立法的機能は内外事項の双方に及ぶが、行政的機能と教育的機能はそれぞれ外的事項と内的事項に限定される。3;教師の教育活動と能力管理をそれぞれ内的事項と外的事項に位置づけること。教師の特別身分保障の観点から、教師は専門職としての能力の行使を享受するが、専門的能力は、客観的、専門的な基準に基づいて評価され、管理される。この枠組みは国民の教育権論の従来の区分論が有していた利点、つまり、国家介入を禁止し、内的事項での教師の自由を保護する点での単純性と厳格性を失わせる危険を持っている。しかし、この枠組みの利用により、教師の自由を消極的に保護するだけでなく、国家や自治体、学校、教師、親、子ども、住民のあり方を積極的に規定することが可能になる。