土門拳の写真集『筑豊のこどもたち』は,多くの人が手に取ることができるようにとの目的で100円写真集として出版された.それはB5サイズのザラ紙に75線で印刷されたものであった.土門にとって,やはり当時100円で売られていた岩波写真文庫の一冊として出版することも可能であった.これはB6サイズのコート紙に150線で印刷され,『筑豊のこどもたち』に比べ写真はより小さく,また1ページに多くの写真がレイアウトされている.また,付けられたキャプションはより詳細なものとなっている.本研究では,『筑豊のこどもたち』を岩波写真文庫のような画質,装丁,レイアウトに編集した新装版を作製し,それから受ける印象をSD法によって調べ,『オリジナル』と比較することで,土門がなぜ岩波写真文庫の1冊として出版せず,『オリジナル』のデザインにこだわったのかを検討した.その結果,岩波写真文庫風のレイアウトは,詳しく説明的だという印象を与え,第1因子は「写真集の印象」であり,本に対する印象が先行していること,一方,『オリジナル』は内容をストレートに伝えることができ,「子どもたちへの共感」が第1因子であることを示し,土門の意図を明らかにした.