目的: 産業現場ではメンタルへルスの不調を訴える労働者が増加傾向にあるとされ,生産性への影響が危惧されている.しかし,製造業のブルーカラー,ホワイトカラーにおける抑うつに関する調査は十分とはいえない.本研究の目的は特に睡眠状況や生活習慣に注目してブルーカラー,ホワイトカラーの職種別に抑うつと関連する要因を明らかにすることである. 対象と方法: 製造業A社社員1,963名を対象に,定期健康診断時に同意を得て自記式質問紙調査を実施した.回収できた1,712名(回収率87%)のうち精神疾患の治療中もしくは既往歴のあるものを除いた男性社員1,258名(ブルーカラー674名,ホワイトカラー584名)を分析対象とした.調査票には基本属性,生活状況のほか睡眠状況についてはWHOの「アテネ不眠尺度」,抑うつについては「CES-Dスケール」を用いた.また,生活習慣は健康診断の問診票に記入されたデータを用いて分析した. 結果: 抑うつがあるとみなされたCES-D16点以上の労働者はブルーカラー,ホワイトカラーともに15.1%で同率であった.アテネ不眠尺度6点以上の不眠者はそれぞれ18.8%,18.3%であった.多重ロジスティック回帰分析で抑うつと有意に関連のみられた要因はブルーカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:10.93;95%信頼区間:6.12–19.51),②「睡眠で疲労がとれない」(オッズ比:3.36;95%信頼区間:1.85–6.09),③「朝食を週3回以上抜く」(オッズ比:3.10;95%信頼区間:1.42–6.76),④「同居家族なし」(オッズ比:2.08;95%信頼区間:1.05–4.12),⑤「片道通勤時間」(オッズ比:1.01;95%信頼区間:1.00–1.02)であった.ホワイトカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:14.91;95%信頼区間:7.54–29.49),②「同居家族なし」(オッズ比:2.54;95%信頼区間:1.27–5.09)であった.なお,睡眠時間は両職種に有意差は認められなかった.また,アテネ不眠尺度6点以上の不眠者のうちCES-D16点以上の抑うつ症状がみられたのはブルーカラーで51.6%,ホワイトカラーで53.8%であった. 結論: ブルーカラー,ホワイトカラーの両職種ともに抑うつを有する者が同程度にみられ,職種にかかわらず保健対策を行うことが必要であると考えられた.また,抑うつには両職種ともに不眠が最も強く関連していることが明らかになり,職場での抑うつ対策として不眠に注目していくことの重要性が示唆された.職種による生活習慣の特徴と不眠状態に焦点を当てて保健指導に活かすことは意義があると考えられた.