失語症状の長期経過を明らかにする研究の一環として, 右手利き左大脳半球一側損傷後に失語症を呈した 270 例の病巣別回復経過と, その中で言語機能に低下を示した 37 例 (機能低下群) の SLTA 総合評価法得点各因子の機能変遷の既報告を俯瞰した。次に機能低下群と長期経過上言語機能に低下を示していない 36 例 (機能維持群) における, SLTA 総合評価法得点に反映されない下位項目の経過について検討した。さらに失語症 248 例について, 機能回復の指標である SLTA 総合評価法得点に影響を及ぼす要因を調査した。その結果, 1) 失語症状の回復は損傷部位や発症年齢によって経過は大きく異なるが, 少なくとも 6 ヵ月以上の長期にわたって回復を認める症例が多いこと, 2) 言語治療後に回復を示した機能は脆弱である可能性が高いこと, 3) SLTA 総合評価法得点に反映されていない SLTA 下位項目「口頭命令に従う」, 「文の復唱」, 「語の列挙」, 「漢字単語の書字」は, SLTA 総合評価法得点を補足する形で失語症状の変遷を鋭敏にとらえる指標と考えられること, 4) 病巣においては, いわゆる言語野と呼ばれる領域以外に, 島, 中心後回, 中側頭回, 下側頭回の損傷の存在や, 皮質萎縮, ラクナ梗塞などのびまん性病変の有無が予後に影響が大きいこと, が示唆された。