現在、ポストMDGsとしてユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)達成が挙げられており、保健人材のパフォーマンス向上が求められている。保健人材開発は国家的なUHC戦略として重要視されている。そこで、UHCと看護をテーマに、東南アジア地域における看護の動向を概観し、実践能力強化を目指した看護人材開発の課題と今後の支援の方向性を検討することを目的に本シンポジウムを企画した。 シンポジウムでは、シンポジストの田代は「UHCにおける看護の役割」と題して、UHCの概念を説明した後、日本の健康課題の変遷とUHC達成における看護職の貢献を述べ、国際協働に必要な日本の看護人材の役割と能力ならびに教育プログラムを提示した。橋本は、「東南アジア地域の開発途上国における看護人材開発の動向-専門職としての規制枠組みを視点として-」と題し、東南アジア地域の保健人材の状況を概観した後、ラオス・カンボジア・ベトナム・ミャンマーの看護人材に関する規制枠組みの状況と法規運用による看護実践能力強化の取り組みを国ごとに説明し、東南アジア地域の開発途上国の看護人材の動向として、過去10年間に急速に法規が制定されたことと、法規を運用した看護実践能力強化の課題を挙げた。五十嵐は、「アジア地域新興国における看護政策の現状」と題し、タイとインドネシアの看護政策を概観した後、インドネシアにおける法規運用による看護実践能力向上の取り組みを説明し、自律的な域内のネットワーク強化支援を提案した。討論では、看護職能団体の立場から職能団体の役割や政策決定に看護職が関与する強固な仕組み、医療施設看護部の立場より看護実践能力を備えた自立した看護師育成の重要性、政府開発援助実施機関の立場より世界的保健課題としての看護人材育成や看護職の法規整備の重要性、看護職の多様性に関する発言があった。 東南アジア地域のUHCは様々な段階にあり、看護人材は、UHCの全ての段階において重要な役割を担う保健人材の中で最も多数を占める専門職である。看護分野の国際協力は、経済発展に応じて変化する保健システムに対応した戦略的で総合的な看護人材開発支援が求められており、そのアプローチは多様化している。日本からの支援として、国際協力に関わる日本人のネットワーク強化を図り、必要とされる支援の多様性に対応することと、東南アジア域内の自立的なネットワーク強化が示唆された。