生体膜における脂肪酸の多様性は, 膜の流動性だけでなく細胞機能に影響を及ぼすことが示唆されている。本研究では, 栄養状態によって変化する生体膜脂肪酸に関して, 脂肪酸の欠乏と過剰の観点から検討を行った。必須脂肪酸欠乏では通常存在しないミード酸 (C20:3n-9) といわれる脂肪酸が産生されることが知られている。そこで, 必須脂肪酸欠乏状態にある培養細胞を用いて脂肪酸合成酵素のsiRNAによる発現抑制を行い, ミード酸の産生遺伝子とその経路を明らかにした。次に3T3-L1脂肪細胞を用いて脂肪滴一重膜の脂肪酸組成の変化を調べた。大型脂肪滴が多い分化後期の脂肪滴膜は分化前期に比べて飽和脂肪酸が少なく, 不飽和脂肪酸が多かったことから, 大型脂肪滴の一重膜は小型脂肪滴に比べて膜の流動性が高いことが示唆された。これらの結果より, 脂肪細胞は肥大化に伴い脂肪滴一重膜の生物物理学的性質が変化することが示された。