本研究では,醸造酢中のC18:111酸の由来を究明するため,純米酢でモデル発酵試験を行い,原料および各工程での脂肪酸成分をキャピラリGCで分析し検討した。 (1) 3銘柄5製品の純米酢中には,C18:111酸が全脂肪酸成分に対し1.6%~15.9%検出され,C18:111酸/(C18:19酸+C18:111酸)比(以下,バクセン酸値)は0.21~0.54であった。 (2) 純米酢の原料である精白米と米麹ならびに酵母菌体中にC18:111酸はほとんど存在しなかった。一方,工場で生産に使用している酢酸菌とNBRC菌体中のC18:111酸は全菌体脂肪酸の40%前後を占め,バクセン酸値はそれぞれ0.87と0.73と極めて高い値を示した。 (3) 糖化および酒精発酵後に可溶部に移行したC18:111酸量はいずれも微量(1%以下)で,両バクセン酸値はそれぞれ0.03と0.02と低値であった。 (4) 2タイプの酢酸菌で発酵させたモデル純米酢中のC18:111酸量は,全工程の中で最高値となり,酢酸発酵前に比し,10~20倍増加し,バクセン酸値はそれぞれ0.22と0.47となった。 (5) 純米酢製品中のC18:111酸は,極性脂質画分に濃縮されていることが判明した。 (6) 純米酢中に検出されたC18:111酸の由来は,酢酸発酵の段階で,菌体膜の一部が発酵液中に移行したことを強く示唆するもので,この移行菌体膜の脂肪酸を検出したものと推定される。