サクランボ,ラ·フランス,リンゴ,ヤマブドウ及びアケビの各果実から S. cerevisiae を含む43菌株の香気生産性酵母を集積し,分離した。低pHでアルコール存在下での集積培養と集積されてきた酵母について18S rRNA遺伝子の部分配列のPCR–TGGE解析と塩基配列の比較による系統解析を組み合わせることで,自然環境中では稀少種である S. cerevisiae を効率良く分離することができた。 S. cerevisiae 菌株は,既報のサクランボからの分離株に加えて,ラ·フランスとリンゴから新たに13菌株が分離された。また S. cerevisiae 以外でも,合計9菌種25菌株の香気生産性の野生酵母菌株が分離された。 分離した野生酵母菌株について炭素源資化性試験を行い生理的性質を調べたところ,ほとんどの菌株では分子系統解析での最近縁種についてのThe Yeast(1998)における記載と合致した。しかし,ラ–フランスから分離した5菌株とリンゴから分離した8菌株の S. cerevisiae 菌株は,それぞれL-ソルボース資化性とトレハロース資化性においてThe Yeast(1998)における S. cerevisiae の記載と異なっていた。 S. cerevisiae 以外の菌株では,サクランボから分離された C. ethanolica 関連のCeS 3株がラクトース資化性の点で,リンゴから分離された P. guilliermondii 関連のPgR 4株がD-グルコサミン資化性の点で,ヤマブドウから分離された H. uvarum 関連のHuY 1株とHuY 2株が2–ケト–グルコン酸の資化性の点でそれぞれの関連菌株についてのThe Yeast(1998)の記載と異なっていた。 分離した香気生産性野生酵母菌株の高級アルコールの生産性について主成分分析したところ, S. cerevisiae 菌株の場合は,分離源ごとに緩やかな集まりとして判別できた。 S. cerevisiae 以外の菌株の場合は,種属ごとに緩やかな集まりとして区別された。その中で P. kluyveri の1菌株など菌株により特徴的な香気生産特性を示すものもあった。