1870年代以降、スペイン王立アカデミアによるアルゼンチン支部創設の是非をめぐって展開された「国語論争」は、アルゼンチンの言語の在り方、ひいては同国のナショナル・アイデンティティの在り方をめぐる論争となった。多くの場合、この論争は、既存のスペイン語を純粋な形で保存すべきと唱える「純粋主義」(親アカデミア派)と、アルゼンチン固有の言語を形成すべきと唱える「新国語形成論」(反アカデミア派)との間で展開された論争として、捉えられてきた。本稿では、この捉え方の不備を指摘し、国語論争の実態をより正確に把握するための指標として、「親スペイン」対「反スペイン」、「権威主義」対「民衆主義」、「反コスモポリタニズム」対「親コスモポリタニズム」という対立軸を提示する。