摘要:本研究は,國府遺跡と伊川津遺跡から出土した縄文時代人骨の放射性炭素年代測定と炭素・窒素安定同位体比による食性解析を行った。國府人骨は,土器などの副葬品や抜歯風習などから,縄文時代前期と晩期の二つの時期に,伊川津人骨は晩期に帰属すると考えられてきた。この従来の年代推定を検証するとともに,食性の時代による変化や,抜歯型式に対応した食性の差違を調べることを目的とした。國府人骨は28個体について分析を行い,伊川津人骨は6個体について分析を行った。年代測定の結果,國府人骨は,5440–5990 cal BP, 4410–4520 cal BP, 2960–3070 cal BPの年代を示した。伊川津人骨は,2440–3070 cal BPの年代を示した。國府人骨の年代は,従来の前期と晩期という二つの時期の分類に加えて,一部中期の個体を含んでいる可能性を検出した。また,國府集団の食性は,陸上・淡水資源の摂取を特徴とし,晩期において淡水魚摂取の割合が下がっていた。伊川津集団の食性は,海産・陸上資源の摂取を特徴とし,晩期の國府集団よりも海産資源をより多く摂取していた。晩期においては,同位体比と抜歯型式の間に明確な関係は見られなかった。このように,人骨資料の年代を確かにすることは基礎的な情報として重要であり,一遺跡内でも食性の時期間変化の検討が可能となる。