現代日本人の乳犬歯の形態的特徴を調査した。資料は抜去歯46歯である。歯冠形質の観察は抜去歯の石膏模型で辺縁隆線,基底結節,棘突起,遠心副隆線を調査した。歯の計測はデジタルノギス(1/100 mm)を使い,歯冠近遠心径,唇舌径,歯根唇舌径,歯頸部エナメル質の膨らみ,歯冠高,近心shoulder高,CMSDを計測した。乳犬歯の歯冠形質をみると男児と女児はともによく似た形態をしていた。舌側面からみると,上顎では辺縁隆線および基底結節の出現頻度が永久犬歯よりも乳犬歯の方が高い。一方,棘突起と遠心副隆線は乳犬歯よりも永久歯の方が出現率は高い。下顎では全体に上顎よりも歯冠形質の表現型が弱い。歯冠サイズでは上顎の歯冠近遠心径と唇舌径で有意に女児の方が男児を上回っていた。それ以外の項目には男・女児間で有意な差はみられなかった。指数値でも上・下顎とも有意な性差はみられなかった。永久犬歯と比較してみると,乳犬歯は以下のように特徴づけられる。1)幅厚指数は100以下を示し,切縁からみた歯冠の外形は近遠心方向に長い形をしている,2)歯頸部エナメル質の相対的な膨らみ具合は永久犬歯よりも強い,3)歯冠高に対する相対的な近心shoulderの位置は上・下顎とも永久歯よりも歯頸寄りの位置にある。