本稿では,縄紋時代中・後期における食と生業に関するデータ蓄積を目的として,青森県内の五つの遺跡から出土した土器について,レプリカ法による圧痕の定量分析を行うものである。前~後期の東北地方北部については,青森県三内丸山遺跡出土土器について,種実や昆虫圧痕等が検出された一方で,その他の遺跡についてはほとんど調査がなされていなかった。筆者らは青森県最花遺跡,富ノ沢(2)遺跡,中の平遺跡,槻ノ木(1)遺跡,安部遺跡の各遺跡から出土した主に中期から後期の土器を対象に,定量分析を実施した。その結果,最花遺跡と富ノ沢(2)遺跡から,通常では土壌中に残存しにくい昆虫の幼虫圧痕を検出することができた。最花遺跡から発見された圧痕は,ゴミムシダマシ科に属するキマワリの幼虫,富ノ沢(2)遺跡から見つかった圧痕については,所属が確定できていないものの,カミキリムシ科の幼虫である可能性が高い。これらの昆虫は,いずれも遺跡周辺に生活し偶然紛れ込んだのではなく,食用など何らかの意図を持って遺跡内に持ち込まれ土器圧痕として姿をとどめたものと考えられる。