自閉スペクトラム症の言語性記憶に関する心理学的研究の展望を行った。まず, 言語性記憶の基本的概念 (記憶の三段階など) について確認をした後, エピソード記憶の古典的モデルである二重貯蔵モデルおよび短期記憶・長期記憶について概説し, さらに, エピソード記憶研究の推進に大きく寄与した検査課題である自由再生について, その特徴とともに解説した。次に, 自閉スペクトラム症を対象とする古典的な記憶研究をやや詳しく紹介し, そこで見出された所見 (健忘症候群に類似する所見と良好な長期記憶成績の混在) に含まれる一見, 矛盾する結果をどのように説明するかが, 後続の研究の課題となったことを述べた。その後, 対象が知的障害のない自閉症へと移るとともに, 記憶材料のもつ要因を操作した自由再生や, 記銘時の処理内容を操作した記憶検査 (処理水準課題) などを用いることにより, 自閉スぺクトラム症のユニークなエピソード記憶の特徴の背景に, 意味記憶の特異な構造あるいは機能が想定された。 最後に, 同じ自閉スペクトラム症のなかでもDSM-IV が規定していた病型 (自閉性障害, アスペルガー障害, 特定不能の広汎性発達障害) により所見が変化することを述べた。