自分よりも優れた他者を見た時,私たちは妬みを感じることもあれば,羨望を感じる時もある。これまでの研究において,羨望は自分が優れた他者に追いつくという動機づけと,妬みは優れた他者を引きずりおろすという動機づけと関わっていることが示唆されている。本研究では身体化メタファー理論の観点から,これらの感情が自己他者概念と上下の運動感覚に関連していることを検討した。参加者は「自分」という単語の上に「他人」という単語が配置された図を呈示された。自己上方移動条件では「自分」という単語を「他人」という単語まで上げる動作を繰り返し,他者下方移動条件では「他人」という単語を「自分」という単語まで下げる動作を繰り返した。その後,参加者自身が競争相手に負けてしまうという内容のシナリオを呈示し,妬みと羨望を測定した。2つの実験の結果,自己上方移動条件は他者下方移動条件と比べて,妬みよりも羨望を感じていた。さらに,自己上方移動条件は防衛的な原因帰属をする傾向が減少していた。こうした結果から,メタファーが妬みと羨望に果たす役割について議論した。