本研究の目的は,同一個人の上肢と下肢のSSC運動におけるパワー発揮特性およびstiffness特性を,競技種目特性と関連づけて検討することであった.そのために,陸上競技の投擲競技者(Thrower群),跳躍競技者(Jumper群)および活動的な男子大学生(Active群)を対象にして,上肢ではスイング型の投動作,下肢ではピストン型の跳躍動作におけるコンセントリック条件およびSSC条件でのパワー発揮能力を測定評価した.本研究では,パワー発揮能力の指標としてのThrow-indexとJump-index,上肢と下肢の予備伸張の効果,肩関節stiffnessと足関節stiffnessなどを算出した.おもな結果は以下の通りである.(1)Throw-index, Jump-indexともに,ssc条件がコンセントリック条件と比較して有意に高値を示したが,いずれの条件においても両者の問に有意な相関関係は認められなかった(コンセントリック条件 : r=0.175, ns, SSC条件 : r=0.195, ns).(2)Throw-indexおよびJump-indexをそれぞれの平均値で区分した場合,SSC条件においてはThrower群が上肢のパワー発揮優位型,Jumper群が下肢のパワー発揮優位型に位置する傾向がみられた.また,Throw-indexとJump-indexとの間には,Thrower群においては正の相関関係が認められる傾向にあり(r=0.838 ; p<0.10), Jumper群においては有意な正の相関関係が認められた(r=0.932 ; p<0.05).(3)肩関節stiffnessとThrow-indexとの間には負の相関関係が認められる傾向にあり(r=-0.468, p<0.10),これとは逆に足関節stiff-nessとJump-indexとの間には有意な正の相関関係が認められた(r=0.673, p<0.01).(4)肩関節stiffnessおよび足関節stiffnessともに,Jumper群がThrower群と比較して高値を示す傾向があった.上述の結果は,運動に対する上肢および下肢の貢献度が大きく異なる競技種目においては,長期間にわたるトレーニングによってそれぞれに特異的な上肢および下肢のパワー発揮特性を獲得する可能性を示唆するものである.