本研究は, ある個人の運動行動を触発し, その意思決定を維持し補強する上での鍵となる人物を「影響者」と定義し, その特性ならぴに被影響者との関係を, 地域のスポーツクラブ (福井県福井市および同県坂井郡金津町内56のクラブ : 質問票回収総数=484) を例に述べたものである。影響者は, それぞれのクラブの成員に対して擬似ソシオメトリー的な質問をすることにより抽出した。サンプルを類別し, 影響の流れを記述するための枠組として, 1)運動生活歴, 2)社交性, 3)先有傾向, および4)基本的な諸欲求の4つの要因を選んだ。結果を要約すると, 次のようである。1. クラブへの加入という局面における影響者は, 勧誘を受ける場合に多く生起するが, その効果性の点では, 勧誘者と被勧誘者とは対等の影響力を発揮する可能性がある。なお, 活動継続時の影響者については, 対人的スポーツよりも集団的スポーツにおいてより重要であるという結果が得られた。2. 意思を開発する段階での影響の授受は, 仲間と連れ立って加入するといったような共有行動の一環として行われるが, クラブ活動にとっての一種の停泊点として機能する対人関係のかなめ的役割を果たす影響者の多くは, 発足当初のメンバーに依存する傾向が強い。3. これら2つの局面における影響者に, クラブ結成の発案者を加えた, クラブ・スポーツの全般的なリーダーは, 運動生活歴によって類別された階層のすべてに, ほとんど等しい割合で出現し, リーダーシップの集中は, 社交性の高い運動者間にみられた。4. 加入時における影響者の需要度は, その時点での意思決定に先立って抱かれていたスポーツクラブの魅力の程度が低くなるにつれて増大する。また, 継続時においては, より高次な欲求を満足させているメンバーほど影響者を必要としなくなることが示唆された。5. 影響の流れを運動生活歴別にみた場合, 影響は同じ階層に位置づけられた運動者同士の間で交換されることが多い。ただ, 活動継続の段階になると, 相互影響性の様相が多様化することが多少なりとも言えるようである。