富山平野中央に位置する呉羽丘陵と射水丘陵は近接しており,近年の窒素(N)負荷量は同程度であるにもかかわらず,呉羽丘陵内の集水域からのN 流出量が射水丘陵内の約17倍多いことが報告されており,呉羽丘陵でのみ窒素飽和が指摘されている。そこで本研究では,呉羽丘陵における窒素飽和現象について,2丘陵の生態系内のN シンク,すなわち,林分内の植生および土壌への保持,および渓流水への流出を比較し,動的窒素飽和概念モデルを用いて説明を試みた。その結果,土壌への N 蓄積量には2丘陵間で差はなかったが,表層(0~10 cm)の純N 無機化・純硝化速度は呉羽丘陵で有意に高かった。生葉の N 濃度や植物から林床へのN 還元量も呉羽丘陵で多かったことから,植物のN 保持は呉羽丘陵でより多いと考えられた。採取した渓流水中の硝酸態N 濃度は呉羽丘陵で有意に高く,呉羽丘陵からのN 流出が多い状態は継続していると考えられた。これらのことから,呉羽丘陵では植生のN 保持が多く,これがリター還元を通じて表層土壌のN 無機化・硝化速度を高め,系外へのN 流出が増加する,動的な窒素飽和が進行していると考えられた。