本研究は, 幼児における自己と他者の調整とその発達, および, それに関わる要因について検討することを目的とした。3歳8カ月-6歳1カ月の女児61名, 男児54名の計115名の幼児に面接調査を行い, 自己と他者の要求が葛藤する4つのジレンマ場面(友だち・母親との各2場面)を提示し, 「もし私だったらどうするか?」についての回答を求めた。加えて, 語彙発達課題と誤信念課題による認知的発達, および, 子どもの社会的ネットワークも測定した。その結果, (a)自己および他者を優先する程度は場面によって異なり, 特に, 「友だちに大切な宝物を貸してほしいと頼まれる」という自己にとってより深刻であると考えられる場面(宝物場面)において自己優先的傾向が高く, その他の場面では他者優先的な傾向が高いこと, (b)年齢が高い群(6歳群)では低い群(3-4歳群)よりも自己優先的な傾向が低く, 他者優先的な傾向が高いこと, (c)宝物場面において自己と他者の両者にともに配慮できる子どもは, 低い群よりも年齢の高い群で多いこと, そして, (d)この自己と他者の両者をともに配慮する傾向には認知的および社会的発達が影響を与えることが示唆された。