餅生地の理化学的性質を明らかにする目的で,搗き方別餅生地を調製し,保存別の経時変化における性状の変化について検討した. 1)光学顕微鏡を用いて,低倍率による餅生地組織の観察を行った結果,スタンプ式餅生地は米胚乳部の大きな細胞組織が残り,ミキサー式ではこれらの米粒組織が細かく破壊され,細胞から流出した澱粉ペーストの割合が多いことが認められた. 2)餅生地は,冷蔵保存により,針入度が減少し,硬化が進行するが,冷凍保存の場合は針入度が減少せず,調製直後の性状を維持していることが認められた.搗き方別餅生地で,冷蔵保存の場合にはミキサー式は針入度が小さく,硬化が早いが,冷凍保存の場合には逆にスタンプ式の針入度が小さく,調製時の性状を維持していることが示された. 3)餅生地の煮溶け率は,冷蔵保存の場合では餅生地の硬化により,煮溶け率が減少するが,冷凍保存の場合では煮溶け率の変化は少なかった.搗き方別では,いずれの保存法でもスタンプ式の煮溶け率が少なく,餅生地の組織構造に由来していることが推察された. 4)餅生地の水分含量および水分活性は,冷蔵,冷凍保存ともにその変化はほとんどなく,搗き方別では水分含量は差がないが,水分活性はミキサー式のほうがわずかに大であった.しかし,餅生地が急激に硬化していくことと水分の変化との関係はないことが示された. 5)餅生地の糊化度は,冷蔵保存ではやや低下の傾向が見られるが,冷凍保存では,ほとんど変化しなかった.搗き方別では冷蔵保存の場合,ミキサー式のほうが低下し,冷凍保存の場合はほとんど差は見られなかった.したがって,酵素法による糊化度の測定は餅生地の硬化の指標にはならないことが示された. 6)餅生地の結晶構造は,生糯米ではA型を示し,餅生地の調製直後では結晶性が消失したが,冷蔵保存により再び結晶性の回復が見られ,保存1週間後でB型へと変化した.冷凍保存では,結晶性の回復は見られず,調製直後の性状を維持していることが認められた.搗き方別では,両方式の差は認められなかった. 7)ビスコグラフによる餅生地の粘度変化は,調製直後では測定開始とともに粘度がわずかに増加し,温度が高くなってもそれ以上の粘度の増加は認められなかった.冷蔵保存の餅生地は,40℃付近より急激に粘度が増大し,最高粘度点は餅生地の硬化が進むにつれ上昇していくが,特にミキサー式餅生地で顕著であった.冷凍保存の餅生地は保存時間の経過による粘度の変化がなく,調製直後の餅生地と同様な性状を維持しているといえる.